東京高等裁判所 平成11年(行ケ)145号 判決 1999年9月03日
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
第一当事者の求める裁判
一 原告(請求の趣旨)
1 平成一一年四月一一日に行われた千葉県議会議員一般選挙(以下「本件選挙」という。)のうち八千代市選挙区における選挙を無効とする。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
二 被告(本案前の抗弁の趣旨)
本件訴えを却下する。
三 被告(請求の趣旨に対する答弁)
主文同旨
第二主張
一 原告(請求の原因)
1 原告は、平成一一年四月一一日に行われた千葉県議会議員一般選挙(本件選挙)の八千代市選挙区における選挙人であり、被告は、本件選挙に関する事務を管理した選挙管理委員会である。
2 原告は、平成一一年四月二〇日、被告に対し、本件選挙のうち八千代市選挙区における選挙を無効とする決定を求めて、公職選挙法(以下「公選法」という。)二〇二条一項に基づき異議を申し出た(甲第一号証)。
3 被告は、同年五月一八日、原告の異議の申出を却下する決定をし、同月二〇日、右決定書を原告に交付した(甲第二号証)。
4 原告は、同月二六日、公選法二〇三条一項に基づき本件選挙のうち八千代市選挙区における選挙を無効とする判決を求めて、本件訴訟を提起した。
5 本件選挙は、千葉県議会議員の選挙区等に関する条例及び千葉県議会議員の定数を減少する条例の一部を改正する条例(平成一〇年千葉県条例第四六号。以下「本件改正条例」という。)に基づいて行われたが、本件改正条例は、印旛郡選挙区からαの区域を選挙区として独立させ、前回選挙前に分区した松戸市の南北選挙区を松戸市一本の選挙区に戻し、議員の総定数を一増したものである。本件改正条例は、自由民主党の提案によるもので、平成一〇年一二月一五日に千葉県議会において可決されたが、その際、他の政党の提案による特例選挙区の廃止等を内容とする条例案は否決された。本件改正条例は、次のとおり公選法一五条八項に違反しており、本件改正条例の制定は千葉県議会の裁量権の合理的行使には該当せず、その権限の濫用であるから、本件選挙は、選挙の規定に違反して行われたものである。
第一 提案者の自由民主党所属議員は、議員定数の配分に当たって投票率を判断材料にして本件改正条例の内容を決めたことを認めているが、地域により異なる投票率を判断材料にすることは、議員定数の人口比例原則を定めた公選法一五条八項に違反する。
第二 提案者の自由民主党所属議員は、本件改正条例において議員の総定数を一増したのは、自由民主党の党内事情によると述べているが、党内事情というのは党利党略にほかならず、公選法一五条八項ただし書の特別の事情に該当しない。
第三 八千代市選挙区(定数二人)は、海上郡選挙区に対して議員一人当たりの人口較差が三・四九倍(平成七年国勢調査人口)になるから、人口比例原則に従って定数を三人にするべきところ、二人にとどまっているが、このことに公選法一五条八項ただし書の特別の事情はない。
二 被告(本案前の抗弁の理由)
本件選挙は、公選法、千葉県議会議員の選挙区等に関する条例(昭和四九年千葉県条例第五五号)、千葉県議会議員の定数を減少する条例(昭和五三年千葉県条例第五三号。以下、両条例を合わせて「本件定数条例等」という。)及び本件改正条例等に基づき適法に執行された。ところで、原告は、本件選挙は平成一〇年一二月一五日に千葉県議会において可決された本件改正条例に基づいて行われたが、本件改正条例は公選法一五条八項に違反するものであり、また、千葉県議会の裁量権の合理的行使には該当しないので、本件選挙は無効であると主張しているものと解される。しかし、公選法二〇三条一項の訴訟に関する規定は、同法に基づき執行された選挙の管理執行上の瑕疵があった場合にこれを無効とし、早期に適正な再選挙を実施して選挙の自由と公正とを確保しようとするために設けられたものであるから、選挙の管理執行上の瑕疵でなく、条例自体の瑕疵を理由とする訴訟は、同法二〇三条一項の規定により争い得るものとは認められず、本件訴訟は、不適法なものとして却下を免れないものである。
三 被告(請求の原因に対する認否)
1 請求の原因1ないし4の事実は認める。
2 請求の原因5の事実のうち、本件選挙が本件改正条例に基づいて行われ、本件改正条例が印旛郡選挙区からαの区域を選挙区として独立させ、前回選挙前に分区した松戸市の南北選挙区を松戸市一本の選挙区に戻し、議員の総定数を一増したものであること、本件改正条例は自由民主党の提案によるもので、平成一〇年一二月一五日に千葉県議会において可決され、その際、他の政党の提案による特例選挙区の廃止等を内容とする条例案は否決されたこと、八千代市選挙区(定数二)は海上郡選挙区に対して議員一人当たりの人口較差が三・四九倍(平成七年国勢調査人口)になること、八千代市選挙区の定数は人口比例原則に従えば三人になるが二人にとどまっていることは認め、その余は否認ないし争う。
四 被告(本件選挙が選挙の規定に違反してないことについての主張)
1 都道府県議会議員の定数配分に関する法律の規定
都道府県議会議員の定数配分については、地方自治の基本法である地方自治法において、議員定数の上限を定め(同法九〇条)、公選法において、選挙区の決め方及び各選挙区に対する定数の配分方法を定めている(同法一五条及び二七一条)。
(一) 県議会議員の総定数
地方自治法九〇条においては、直近の国勢調査人口に基づき議員定数の上限数(以下「法定数」という。)の算出方法が定められ、また、その法定数に対し条例で特に減少することができる旨が定められている。
千葉県では、直近の国勢調査(平成七年一〇月一日現在)における人口に基づいて算定すると、法定数は一一四人であるが、千葉県議会は、平成一〇年一二月県議会で議員の総定数を九八人とした。
(二) 選挙区の決定方法
公選法によれば、議員の選挙区は郡市の区域によるとされている(同法一五条一項)。そして、当該選挙区の人口が、当該都道府県の人口を当該都道府県の議会の議員定数をもって除して得た数(以下「議員一人当たりの人口」という。)の半数に達しない場合には、条例で隣接する他の郡市と合わせて一選挙区を設けなければならないことが原則とされている(強制合区規定。同法一五条二項)。また、当該選挙区の人口が議員一人当たりの人口の半数以上あるが、議員一人当たりの人口には達しないときは、独立した選挙区とするか、あるいは条例で隣接する他の郡市と合わせて選挙区を設けるかは当該都道府県議会の裁量に委ねている(任意合区規定。同条三項)。なお、合区選挙区を設けるにあたり、どのような郡市をもって合区選挙区とするかについても当該都道府県議会の裁量による(同条七項)。
さらに、公選法二七一条二項では、昭和四一年一月一日現在において設けられている選挙区については、強制合区の対象となった場合でも、当分の間、強制合区の規定にかかわらず、当該区域をもってそのまま選挙区として設けることができる旨を規定している。この規定は、いわゆる高度経済成長下に生じた都市部ないし大都市周辺部への急激な入口集中、農山漁村の過疎化の現象をそのまま定数配分に反映させることが、過疎地域の活力の一層の低下を招いたり、一貫性、継続性のある施策を遂行する妨げになったりすることを考慮し設けられたものである。
千葉県において、海上郡、匝瑳郡及び勝浦市の三選挙区は、強制合区の対象となるが、この二七一条二項の規定を適用し、独立の選挙区として存置されている。
(三) 議員定数の配分方法
公選法は、議員定数の配分方法について、各選挙区に対する定数配分は原則として人口比例とするが、特別な事情がある場合には地域間の均衡を考慮して人口以外の諸要素を総合勘案して行うことができる旨を同法一五条八項ただし書で定めている。この規定は、都市部における人口の増加、一方の郡部における入口の減少により、住民の数と地方公共団体の行政需要が必ずしも対応していない状況を踏まえ定められたものであり、具体的には、各地域の社会経済事情に著しい格差が生じ、このため各地域が当該地方公共団体全体の発展の上で占める重要さの程度や各地域の積極的な行政上の施策を必要とする程度が、必ずしも人口に比例しなくなっていること、また、都道府県の行政の役割が市町村、特に小さい市町村の行政を補完すること及び広域にわたる行政を推進することにあることから、その公正かつ円滑な運営を期するため、各選挙区に対する定数を機械的に人口に比例して行うのではなく、人口比例原則に特例を設け、それぞれの地域の代表をそれぞれの地域の特殊性に応じて確保し、均衡のとれた配分を議会の裁量により可能にしようとして設けられた規定である。
2 今回の議員定数条例等の改正について
(一) 改正経緯について
今回の、千葉県議会議員の選挙区等に関する条例及び千葉県議会議員の定数を減少する条例(本件定数条例等)の改正に当たっては、平成一〇年一〇月六日に「千葉県議会議員定数等検討委員会」が設置された。この委員会は、自由民主党一〇人、民主・未来二人、公明党、日本共産党、政策研究会ちば21各一人の計一五人で構成されたものであり、平成一〇年一〇月一三日から同年一二月九日にかけて五回にわたり開催された。具体的な検討に当たっては、千葉県議会議員の法定数が前回の議員定数決定時よりも三増して一一四となったところではあるが、県民の行政改革への要請と地方財政を取り巻く厳しい状況に配慮し、増員を必要最小限度に抑えるといった方針のもとに、各選挙区間の較差の事情、印西市の市制施行による印旛郡選挙区の区域の変更等の個別の事情及び平成八年一二月千葉県議会において採択された松戸市南選挙区と松戸市北選挙区の合区の請願に対する対応等について協議、検討が重ねられたところである。そして、各会派の意見の一致がみられなかったため、平成一〇年一二月一五日、千葉県議会には、自由民主党案と他の会派案の二案が上程され、自由民主党案が可決されるに至った。
(二) 改正内容について
右県議会において可決された定数条例等の改正(本件改正条例)の結果、印旛郡の区域については、公選法一五条四項の適用により、印西市により分断されたαの区域とその他の区域をそれぞれ独立の郡とみなすこととされ、αを除く区域は印旛郡選挙区として従前の印旛郡選挙区と同じ定数二人が配分され、αの区域はα選挙区として定数一人が配分されることとなった。また、松戸市の区域については、前述した請願に沿って、同条五項の適用が廃され、同条一項の規定により、市全域の区域をもって松戸市選挙区とされ、両選挙区の定数を合わせた定数七人が配分されることとなった。
以上により、総定数は一増の九八人となったものである。
(三) 印旛郡選挙区の分割と総定数の一増について
印旛郡選挙区は、平成六年の定数条例等の改正時に、定数が一増となり定数三人とされたところであるが、平成八年四月一日の印西市の市制施行に伴い、印西市選挙区に定数一人が配分されたため、定数は二人となった。また、前述したように印西市の市制施行により印旛郡選挙区はαの区域とその他の区域に分断されることとなったものである。平成七年の国勢調査におけるαの人口は四万七四五〇人、その他の区域の人口は一一万二一三〇人であり、αは現在は人口五万人を超え、次回の国勢調査後に市制を施行することが予想されているところである。こうしたαの状況を踏まえ、αの区域を独立の選挙区として定数一人が配分され、αを除く印旛郡の区域については人口一〇万人を超えることから定数一人とすると他の選挙区との較差が著しくなるため定数二人を配分することとされたものである。これらの結果として、千葉県議会の総定数が一増するに至ったわけであるが、これは、以上述べた合理的な理由によるものであり、原告が主張するような理由によるものでないことは明らかである。
3 公選法一五条八項ただし書適用選挙区の合理性について
千葉県は、全国有数の入口増(社会増)の著しい県である。昭和三五年以降、高度経済成長に伴う人口の大都市圏への集中により、首都近郊の千葉・東葛飾地域を中心として著しい人口の増加がみられ、昭和三五年当時(約二四〇万人)から昭和五五年までの二〇年間で倍増し約四七〇万人となり、その後も更に増加を続け、現在、五八〇万人を超えるに至っている。また、千葉県における人口増はそのほとんどが千葉市、市川市、船橋市、松戸市、八千代市等の首都近郊の地域(以下「近郊内地域」という。)の市町村に集中しており、人口が微増ないし横這い等の市町村の多い首都近郊外の地域との格差が著しく、千葉県の発展に大きな不均衡をもたらしているところであり、これらの両地域間の格差是正が県政上の重要な課題の一つとなっているところである。
このような千葉県の実情が考慮され、本判決別表(千葉県議会議員定数較差等一覧)の人口比定数のみにより定数を配分するのではなく、地域間の均衡を図るべく、一部の選挙区については人口比定数とは異なる配分がされているところであり、これは、前述した公選法一五条八項ただし書の趣旨に適合した措置である。
以下、公選法一五条八項ただし書が適用されている各選挙区の特別の事情及び合理性について述べることとする。
(一) 長生郡選挙区
本選挙区は、昭和二二年、二六年の県議会議員一般選挙においては、それぞれ四人、三人の定数であったが、昭和二七年の茂原市の市制施行により同市が分離独立(定数一人)し、その後、昭和三〇年の県議会議員一般選挙では三人の定数が維持されたが、三四年の県議会議員一般選挙以降は定数二人となり、今日に至っている。
この地域は、千葉市から約三五キロのβ平野の南部に位置し、六町村から構成されている。主たる産業は農業で、首都圏の食糧基地として重要な役割を果している。しかし、後継者不足による農家数の減少が目立ち、全人口に占める六五歳以上人口の割合は県平均の約二倍と高齢化が進んでいる。また、首都圏中央連絡自動車道をはじめとする各種道路の整備や観光の核となる施設の設置等が課題とされているところである。
以上から、今後とも行政需要の増大が見込まれること、それを実現する町村の財政力も弱いこと、配当基数の低下が近郊内地域の人口増大による相対的なものであること等を総合的に勘案し、特に地域間の均衡を図る観点から公選法一五条八項ただし書を適用したことは合理性を有するものである。
(二) 山武郡選挙区
本選挙区は、昭和二二年、二六年の県議会議員一般選挙においては、五人の定数であったが、昭和二九年に東金市が市制施行により分離独立(定数一人)したことに伴い、昭和三〇年、三四年の県議会議員一般選挙では定数四人に、さらに昭和三八年以降は定数三人となり、今日に至っている。
この地域は、千葉市から約三〇キロのβ平野の中央に位置し、八町村で構成されている。海岸部はβ海岸が続いている。また、成田空港の南東に位置し、圏域北部(γ、δ、ε、ζ)は航空機の飛行コースとなっており、地域の一部に空港用地が含まれている。主たる産業は第一次産業であり、農業は水稲、野菜、施設園芸等が行われており、林業は「山武杉」の名で知られる杉の生産等が行われており、鰯漁を中心とした水産業も盛んである。地域内を通過しているJR総武本線、東金線は単線であり、東京・千葉方面への運行本数も少なく、その改善が望まれている。また、芝山鉄道の整備促進、首都圏中央連絡自動車道の整備等が課題とされているところである。
以上から、今後とも広域的な行政対応が必要なこと、行政需要の増大が見込まれること、それを実現する町村の財政力も弱いこと、地域内人口が増加傾向にあること等を総合的に勘案し、特に地域間の均衡を図る観点から公選法一五条八項ただし書を適用したことは合理性を有するものである。
(三) 香取郡選挙区
本選挙区は、昭和二二年の県議会議員一般選挙においては六人の定数であったが、昭和二六年に佐原市が市制施行により分離独立(定数一人)した。その後、昭和二六年、三〇年の県議会議員一般選挙では定数四人となり、さらに三四年以降は定数三人となり、今日に至っている。
この地域は、千葉市から約四〇キロの千葉県の北東部、北総台地に位置し、九町で構成されている。主たる産業は農業であるが、農業就業者の減少、高齢化、後継者不足等の問題を有しており、地域外に就業の場を求める者も多い。また、生産性の高い快適な農村空間の創造を目的とした各種施策の実施、首都圏中央連絡自動車道をはじめとする各種道路の整備及び上水道の普及促進等が課題とされているところである。
以上から、今後とも地域の行政需要の増大が見込まれること、それを実現する町の財政力も弱いこと、配当基数の低下が近郊内地域の人口増大による相対的なものであること等を総合的に勘案し、特に地域間の均衡を図る観点から公選法一五条八項ただし書を適用したことは合理性を有するものである。
(四) 夷隅郡選挙区
本選挙区は、昭和三〇年までの県議会議員一般選挙においては三人の定数であったが、昭和三三年に勝浦市が市制施行により分離独立(定数一人)したことに伴い、昭和三四年の県議会議員一般選挙以降、定数二人となり、今日に至っている。
この地域は、千葉県の東南部、千葉市から約四五キロに位置し、五町で構成されている。主な交通機関として、JR外房線及び「いすみ鉄道」があるが、いずれも単線である。外房線は完全複線化が強く要請されており、また、「いすみ鉄道」については、その経営安定化のための支援が望まれているところである。一方、この地域内のηは過疎地域活性化特別措置法による過疎地域となっており、また、同町及びθの町内では、辺地に係る公共的施設の総合整備のための財政上の特別措置等に関する法律に基づき辺地対策が進められている。
以上から、今後とも地域の活性化を図る必要性が高いこと、それを実現する町の財政力も弱く県行政の果たすべき役割が大きいこと等を総合的に勘案し、特に地域間の均衡を図る観点から公選法一五条八項ただし書を適用したことは合理性を有するものである。
(五) 安房郡選挙区
本選挙区は、昭和三〇年の県議会議員一般選挙までは五人の定数であったが、昭和三四年の県議会議員一般選挙において定数四人となり、その後、昭和四二年の県議会議員一般選挙以降は定数三人となった。昭和四六年の鴨川市の市制施行により鴨川市・ι選挙区が分離独立(定数一人)したことに伴い、昭和五〇年以降は定数二人となり、今日に至っている。
この地域は、千葉市から約七〇キロの房総半島の南部に位置し、八町村で構成されている。基幹産業は農漁業の第一次産業と観光であるが、交通体系の立ち遅れにより産業経済は伸び悩んでいる。このため地域内人口は減少を続けており、全人口に占める六五歳以上の人口の割合は、県平均の約二・三倍と著しく高い割合となっている。このような中で、東関東自動車道館山線をはじめとする各種道路の整備、水道の広域的整備による安定供給確保のための事業等の推進が課題とされているところである。
以上から、今後とも地域の行政需要の増大が見込まれること、それを実現する町村の財政力も弱く県行政の果たすべき役割が大きいこと等を総合的に勘案し、特に地域間の均衡を図る観点から公選法一五条八項ただし書を適用したことは合理性を有するものである。
(六) 銚子市選挙区
本選挙区は、昭和二二年の第一回県議会議員選挙以来、昭和三四年及び三八年の県議会議員一般選挙時(定数三人)を除き定数二人が配分され、今日に至っている。
同市は、千葉市から約七〇キロの県の東北端に位置し、北は利根川、東は太平洋に面し、全国有数の水揚高を誇る銚子漁港を有し、水産業、農業及び醤油醸造、水産加工を主とする製造業を主産業として発展してきた東総地域の中核都市である。しかし、袋小路のような地理的条件、JR総武本線、成田線は単線で利便性に劣ることなどが定住を阻害する要因となっている。このため、同市の入口は昭和四〇年国勢調査時をピークに減少し続けており、人口の高齢化を招いている。このような中で、銚子新大橋有料道路の整備、銚子総合漁業基地化の推進及び名洗港「銚子マリーナ」の整備等が課題とされているところである。
以上から、今後とも地域の行政需要の増大が見込まれること、それを実現する市の財政力も弱いこと等を総合的に勘案し、特に地域間の均衡を図る観点から公選法一五条八項ただし書を適用したことは合理性を有するものである。
(七) 茂原市選挙区
本選挙区は、昭和二七年に市制を施行し長生郡選挙区から分離独立し、昭和三〇年の県議会議員一般選挙以降、定数一人となっていたが、平成三年一月の条例改正により同年四月の県議会議員一般選挙から定数二人となり、今日に至っている。
同市は、千葉市から約三〇キロ弱の県中央部に位置し、天然ガスが産出され、これを利用した工業都市として発展し、現在は地域の商業中心地となっている。また、同市には、長生郡市のごみ処理、水道、し尿処理、病院等の事業を行っている長生郡市広域市町村圏組合、県の長生支庁、長生土木事務所、茂原保健所等の主要な施設が置かれている。
以上から、県の中央地域の行政の中核として重要な地域であること、選挙区内人口も増加を続けていること等を総合的に勘案し公選法一五条八項ただし書を適用したことは合理性を有するものである。
(八) 成田市選挙区
本選挙区は、昭和二九年に市制を施行し印旛郡選挙区から分離独立し、昭和三〇年の県議会議員一般選挙以降、定数一人となっていたが、平成三年一月の条例改正により同年四月の県議会議員一般選挙から定数二人となり、今日に至っている。
同市は、千葉市の北東約三〇キロ弱にあり、古くから成田山新勝寺の門前町として発展し地域の中核都市となっている。同市には、新東京国際空港が開港され、現在も平行滑走路等の整備について引き続き取り組まれており、県では企画部に空港地域振興課を置くなどして、航空機騒音等の諸問題にも対処しているところである。また、成田空港の開港により国際的な人の交流、物流の拠点を持つこととなったため成田国際物流複合基地事業及び成田国際観光モデル地区の整備等の推進が課題とされているところである。
以上から、県行政の果たすべき役割が大きいこと、選挙区内人口も増加を続けていること等を総合的に勘案し、公選法一五条八項ただし書を適用したことは合理性を有するものである。
一方、市川市、船橋市、松戸市、習志野市、柏市、市原市及び八千代市の各選挙区の定数は、総定数の枠の中、郡又は市の区域を単位として選挙区を定めることを原則とする公選法のもとで、同法一五条八項ただし書を適用し各選挙区の定数が定められた結果、人口比定数と比較すると、船橋市では二人、それ以外の市では各一人の不足となっているところである。
原告が住所を有する八千代市選挙区は、昭和四二年に市制が施行され、昭和四二年の県議会議員一般選挙以降定数一人となっていたが、昭和六一年一二月の条例改正により定数二人となり、現在に至っている。この地域は、県北西部の近郊内地域に位置し、昭和三〇年以降、住宅団地や工業団地の建設が全国に先駆けて行われ、東京のベッドタウンとして急激に人口が増加し、現在は一六万人を超える人口となっている。
県内には、八千代市等の人口が急増した近郊内地域とは逆に、前述したように立地条件、交通事情等から人口が横這いあるいは微増にとどまっている地域がある。これらの地域の中には、近郊内地域との社会経済事情の著しい格差により、県全体の均衡のある発展をめざす上で、より積極的な行政上の施策の推進が必要とされる地域が存在しており、これらの地域の選挙区に対しては、公選法一五条八項ただし書の適用により人口比定数よりも多い定数が適法に配分されているところである。
現行の都道府県の制度においては代議制民主主義が採用されており、都道府県民の多様な声が議会で十分に反映されることが重要である。また、地方自治を市町村とともに担う都道府県は、市町村を包括する地方公共団体であり、国と市町村の中間に位置し、その機能は市町村とは異なり、広域にわたるもの、統一的な処理を必要とするもの、市町村の行政を補完する必要のあるもの等を処理するものとされている。
このような点等を前提とし、非人口的要素をも勘案して定数配分がなされた結果、一部の選挙区において人口比定数と異なる定数が配分されるに至ったものであり、各々の定数配分に当たっては公選法一五条八項ただし書における「特別な事情」が存することは以上のとおり明らかである。
4 特例選挙区について
(一) 配当基数について
前述したとおり千葉県においては、海上郡、匝瑳郡及び勝浦市の三選挙区が公選法二七一条二項の適用による特例選挙区として存置されている。
昭和六二年四月一二日施行の県議会議員一般選挙の際の選挙区人口を議員一人当たりの人口で除して得た数(以下「配当基数」という。)は、海上郡選挙区が〇・三五五、匝瑳郡選挙区が〇・三五七、勝浦市選挙区が〇・四一五であった(昭和六〇年国勢調査人口による)。これに対し、最高裁判所昭和六三年(行ツ)第一七六号平成元年一二月一八日第一小法廷判決は、「もっとも、都道府県議会の議員の選挙区に関して公選法一五条一項ないし三項が規定しているところからすると、同法二七一条二項は、当該区域の人口が議員一人当たりの人口の半数を著しく下回る場合、換言すれば、配当基数(すなわち、各選挙区の人口を議員一人当たりの人口で除して得た数)が〇・五よりも著しく下回る場合には、特例選挙区の設置を認めない趣旨であると解される。(中略)しかも、右の程度の配当基数によれば、いまだ特例選挙区の設置が許されない程度には至っていないものというべきである。したがって、本件条例(千葉県議会議員の選挙区等に関する条例)のうち右三選挙区を特例選挙区として存置したことは適法である。」と述べている。
また、平成三年四月七日施行の県議会議員一般選挙の際の配当基数は、海上郡選挙区が〇・三六四、匝瑳郡選挙区が〇・三六三、勝浦市選挙区が〇・四一九であった(平成二年国勢調査人口による)。これに対し、最高裁判所平成四年(行ツ)第九四号平成五年一〇月二二日第二小法廷判決は「海上郡、匝瑳郡、勝浦市の三選挙区の配当基数は、いまだ特例選挙区の設置が許されない程度にまでは至っていないものというべきであり、他に、千葉県議会が平成三年改正後の本件条例において右の三選挙区を特例選挙区として存置したことが社会通念上著しく不合理であることが明らかであると認めるべき事情もうかがわれないから、同議会が、右の三選挙区を特例選挙区として存置したことは、同議会に与えられた裁量権の合理的な行使として是認することができる。したがって、平成三年改正後においても本件条例(千葉県議会議員の選挙区等に関する条例)が右の三選蓬挙区を特例選挙区として存置したことは適法である。」と述べている。
平成七年国勢調査人口によれば、今回の配当基数は、海上郡選挙区が〇・三七四、匝瑳郡選挙区が〇・三七五、勝浦市選挙区が〇・四一一と、海上郡選挙区及び匝瑳郡選挙区については共に数値が上がっており、また、勝浦市選挙区については若干数値が下がっているもののほぼ横這いといった状況である。
したがって、これらの最高裁判所の判決の趣旨と本件選挙時の三選挙区の配当基数の状況を照らし合わせれば、これら三選挙区を特例選挙区として存置したことが適法であることは明白である。
以下、三選挙区の状況について述べる。
(二) 海上郡選挙区
この選挙区は、昭和二二年、二六年の県議会議員一般選挙の際は、一二町村で構成され定数二人であったが、昭和二九年から三一年にかけて行われた町村合併により、旭市、海上郡κ及びλの三市町が誕生し、旭市は昭和二九年市制施行により独立選挙区(定数一人)となった。以来、海上郡選挙区は、κ及びλによって構成され、今日に至っている。この間、選挙区の人口は、国勢調査結果では、昭和三〇年から昭和四五年まで人口流出により減少を続けてきたが、その後、わずかながら増加に転じている(昭和四五年一万九八二四人、昭和五〇年二万〇一八七人、昭和五五年二万〇七六四人、昭和六〇年二万一五三二人、平成二年二万二〇三〇人、平成七年二万二一六七人)。しかし、昭和五〇年の県議会議員一般選挙から、配当基数が〇・五を下回る(〇・四六五)こととなり強制合区の対象となったが、この低下が主に近郊内地域の人口急増による相対的なものであること、この地域の行政需要、地域の特殊性、議員選出の歴史的経緯等が勘案され、特に近郊内地域との均衡を図る観点から、昭和四九年九月千葉県議会において、公選法二七一条二項の適用により独立選挙区として存置することが決定され、平成一〇年一二月千葉県議会においても同様の観点から引き続き独立選挙区として存置することが決定されたものである。
この選挙区は、東京から約八〇キロ、千葉市から約五〇キロ、県の東北端に位置し、農業・水産業を主産業に発展してきたところであるが、農業、水産業の後継者不足、それに伴う就業者の高齢化等の問題を抱えているほか、地域内に就業の場が少なく若年層の流失等による地域内人口の高齢化が進んでおり、所得水準も低く、町の財政力も弱いものになっている。
以上、今後とも地域の行政需要の増大が見込まれること、地域内人口も昭和四五年国勢調査以降微増を続けていること、配当基数の低下が近郊内地域の人口増加による相対的なものであること等を総合的に勘案し、近郊内地域との均衡を図る観点から独立選挙区として存置されている。
(三) 匝瑳郡選挙区について
この選挙区は、昭和二二年、二六年の県議会議員一般選挙の際は、一四ないし一八町村で構成され定数二人であったが、昭和二九年の町村合併により、八日市場市、匝瑳郡μ及びνの三市町が誕生し、八日市場市は、昭和二九年市制施行により独立選挙区(定数一人)となった。以来、匝瑳郡選挙区は、μ及びνによって構成され、今日に至っている。この間、選挙区の人口は、国勢調査結果では、昭和三〇年から四五年まで人口流出により減少を続けてきたが、その後わずかながら増加に転じている(昭和四五年二万〇二六五人、昭和五〇年二万一〇四三人、昭和五五年二万一二九四人、昭和六〇年二万一六六三人、平成二年二万一九三〇人、平成七年二万二二三四人)。しかし、昭和五〇年の県議会議員一般選挙から、配当基数が〇・五を下回る(〇・四七五)こととなり、強制合区の対象となったが、この低下が主に近郊内地域の人口急増による相対的なものであること、この地域の行政需要、地域の特殊性、議員選出の歴史的経緯等が勘案され、特に近郊内地域との均衡を図る観点から、昭和四九年九月千葉県議会において、公選法二七一条二項の適用により独立選挙区として存置することが決定され、平成一〇年一二月千葉県議会においても同様の観点から引き続き独立選挙区として存置することが決定されたものである。
この選挙区は、東京から約七〇キロ、千葉市から約四〇キロ、県の北東部に位置し、主たる産業は、農業であるが、昨今、農業の後継者不足、それに伴う就業者の高齢化等の問題を抱えているほか、地域内入口の高齢化が進んでおり、所得水準も低く、町の財政力も弱いものになっている。
以上、今後とも地域の行政需要の増大が見込まれること、地域内人口も昭和四五年国勢調査以降微増を続けていること、配当基数の低下が近郊内地域の人口増加による相対的なものであること等を総合的に勘案し、近郊内地域との均衡を図る観点から独立選挙区として存置されている。
(四) 勝浦市選挙区について
勝浦市は、昭和三〇年四町村が合併し、昭和三三年の市制施行に伴い独立選挙区となり、以来、定数一人であった。この間、国勢調査入口は市外への流出により、昭和三〇年には三万一六四八人であったものが、昭和五五年には二万五四六二人にまで減少し、その後、昭和六〇年にかけては人口減少も鈍化(昭和六〇年二万五一五九人)したが、昭和五八年の県議会議員一般選挙から配当基数が〇・五を下回り(〇・四二五)、強制合区の対象となった。
しかし、この配当基数の低下が主に近郊内地域の入口急増による相対的なものであること、この地域の行政需要、地域の特殊性、議員選出の歴史的経緯等が勘案され、特に近郊内地域との均衡を図る観点から、昭和五七年一二月千葉県議会において、公選法二七一条二項の適用により独立選挙区として存置することが決定され、平成一〇年一二月千葉県議会においても同様の観点から引き続き独立選挙区として存置することが決定されたものである。
同市は、県の南東部、東京から約七五キロ、千葉市から約四五キロに位置し、農業と漁業の町として発展してきたところであるが、農業、水産業の後継者不足、それに伴う就業者の高齢化等の問題を抱えているほか、地域内に就業の場が少なく若年層の流失等による地域内人口の高齢化が進んでおり、所得水準も低く、市の財政力も弱いものになっている。
以上、今後とも地域の行政需要の増大が見込まれること、配当基数の低下が近郊内地域の人口増加による相対的なものであること等を総合的に勘案し、近郊内地域との均衡を図る観点から独立選挙区として存置されている。
5 定数配分について
(一) 投票価値の較差について
公選法は、前述したとおり、人口比例の原則に修正を認め、特別の事情があるときは、おおむね人口を基準とし、地域間の均衡を考慮して定めることができるとしている(公選法一五条八項ただし書)。
これにつき、投票価値の最大較差について最高裁判所平成四年(行ツ)九四号平成五年一〇月二二日第二小法廷判決は「そして、本件選挙当時における各選挙区の人口、配当基数及び配当基数に応じて定数を配分した人口比定数(公選法一五条七項(現第八項)本文の人口比例原則に基づいて配分した定数)は、原判決添付第三表のとおりであり、右人口比定数による特例選挙区を除くその他の選挙区間における議員一人に対する人口の最大較差は一対二・七六(八日市場市選挙区対君津市選挙区)となり、特例選挙区とその他の選挙区間の議員一人に対する人口の最大較差は一対四・〇七(匝瑳郡選挙区対君津市選挙区)となる。言い換えれば、公選法一五条七項本文に従って議員定数を配分したとした場合の議員一人に対する人口の最大較差は、特例選挙区を除いた場合には一対二・七六、特例選挙区を含めた場合には一対四・〇七となるはずのところを、千葉県議会が公選法一五条七項ただし書を適用して本件条例(千葉県議会議員の選挙区等に関する条例)の平成三年改正を行った結果、その最大較差は、右のとおり特例選挙区を除いた場合には一対二・四五、特例選挙区を含めた場合には一対三・四八になっており、いずれの較差も縮小されているということになる。」と述べ、本件選挙当時における投票価値の不平等は、千葉県議会に与えられた裁量権の合理的な行使として是認することができ、適法であるとされた。また、最高裁判所平成四年(行ツ)第一七二号平成五年一〇月二二日第二小法廷判決は「本件選挙当時においては、特例選挙区を除いたその他の選挙区間における議員一人に対する人口の最大較差は一対二・八九(名古屋市中区選挙区対西尾市選挙区。以下較差に関する数値は、いずれも概数である。)、特例選挙区とその他の選挙区間における右最大較差は一対五・〇二(南設楽郡選挙区対西尾市選挙区)であり、(中略)本件選挙当時における各選挙区の人口、配当基数は、原判決添付別表一のとおりであり、これに基づいて、配当基数に応じて定数を配分した人口比定数(公選法一五条七項(現八項)本文の人口比例原則に基づいて配分した定数)を算出してみると、右人口比定数による特例選挙区を除くその他の選挙区間における議員一人に対する人口最大較差は一対二・八四(高浜市選挙区対西尾市選挙区)となり、特例選挙区とその他の選挙区間の議員一人に対する人口の最大較差は一対五・〇二(南設楽郡選挙区対西尾市選挙区)となることが計算上明らかである。そうしてみると、愛知県議会が公選法一五条七項ただし書を適用して本件条例(愛知県議会議員の選挙区等に関する条例)の平成二年改正を行った結果、同項本文に従って議員定数を配分したとした場合と比較して、特例選挙区を除くその他の選挙区間における議員一人に対する人口の最大較差は、わずかに拡大しているものの、特例選挙区を含めた場合の議員一人に対する人口の最大較差に変動はなく、右の一対五・〇二という較差は、南設楽郡選挙区を特例選挙区として存置したこと(その存置が適法であることは、前記説示のとおりである。)に由来するものということができる。」と述べ、本件選挙当時における投票価値の不平等は、愛知県議会に与えられた裁量権の合理的な行使として是認することができるとされ、特例選挙区を除くその他の選挙区間における最大較差について、人口比定数によった場合の較差よりも実際の選挙当時における較差が〇・〇五のわずかな拡大にとどまったものについても適法であるとの判示がなされているところである。
そこで、本件選挙についてみると、人口比定数により特例選挙区とその他の選挙区間の投票価値の最大較差を算出すれば、一対四・一四(海上郡選挙区対茂原市選挙区)となり、特例選挙区を除くその他の選挙区間における投票価値の最大較差は、一対二・七五六(八日市場市選挙区対茂原市選挙区)と計算上なるが、平成一〇年一二月に本件改正条例が可決された結果、投票価値の最大較差は、特例選挙区を含めた場合には一対三・七三(海上郡選挙区対千葉市ξ選挙区)と較差が縮小している。また、特例選挙区を除いた場合においても、一対二・七五八(安房郡選挙区対千葉市ξ選挙区)と、較差は〇・〇〇二の微増にとどまっており、これは、最高裁判例で適法とされた範囲内にあることは明らかである。
(二) 逆転現象について
人口の多い選挙区の定数が人口の少ない選挙区の定数より少ないといういわゆる逆転現象については、昭和五八年選挙時は五〇通りあったが、その後の改正により減少し、前回選挙時には二七通りとなり、今回の改正により、更に減少し二五通りとなっている。また、定数が二人以上の差のある顧著な逆転現象は生じていない。
したがって、本件改正条例に係る定数配分規定は適法である。
五 原告(本案前の抗弁に対する答弁)
本件定数条例等の定数条例における議員定数配分に関する訴訟は、東京高等裁判所昭和五八年七月二五日判決から最高裁判所平成一一年一月二二日第二小法廷判決まで、すべて適法と認めている。
理由
一 原告が平成一一年四月一一日に行われた千葉県議会議員一般選挙(本件選挙)の八千代市選挙区における選挙人であり、被告が本件選挙に関する事務を管理した選挙管理委員会であること、原告が平成一一年四月二〇日被告に対し本件選挙のうち八千代市選挙区における選挙を無効とする決定を求めて公選法二〇二条一項に基づき異議を申し出たこと、被告が同年五月一八日原告の異議の申出を却下する決定をし同月二〇日右決定書を原告に交付したことは、いずれも当事者間に争いがなく、原告は同月二六日本件訴訟を提起しているから、本件訴訟は、公選法二〇三条一項に基づく訴訟として適法である。
本件訴訟について、被告は不適法であると主張するが、地方公共団体の議会の議員の定数配分を定めた条例の規定そのものの違法を理由とする地方公共団体の議会の議員の選挙の効力に関する訴訟が公選法二〇三条の規定による訴訟として許されることは、判例上明らかであるから、被告の本案前の抗弁は採用することができない。
二 そこで、本件選挙が選挙の規定に違反して行われたかどうかを原告の主張に即して判断する。
原告は、第一に、提案者の自由民主党所属議員が議員定数の配分に当たって投票率を判断材料にして本件改正条例の内容を決めたことを認めており、地域により異なる投票率を判断材料にすることは議員定数の人口比例原則を定めた公選法一五条八項に違反すると主張する。
しかし、本件改正条例の内容に投票率の高低に配慮して決められたと認めるべきところはないから、原告の右主張は採用の余地がない(なお、特例選挙区である海上郡選挙区、匝瑳郡選挙区及び勝浦市選挙区の投票率が他の選挙区の投票率より高かったとしても、このことによって、原告の右主張が立証されたことにはならないし、また、本件改正条例において特例選挙区の廃止を含まなかったことが違法となるものでもない。)。付言するに、千葉県定例県議会会議録(甲第三号証)によれば、条例案の提出者であるA議員から、過密地区では投票率が低く、投票権は大事だけれども投票権を行使することも大事であり、過密地区と過疎地区との間の定数の配分については、これからも議論をしながら是正を図っていきたいとの趣旨の発言があったことが認められ、この発言の前提に、過疎地区は投票率が高いから定数の配分上優遇するべきである、ないしは特例選挙区を存置するべきであるとの構想があるとしても、それが本件改正条例の内容に反映したと認めるべきところはない。
三 原告は、第二に、提案者の自由民主党所属議員が本件改正条例において議員の総定数を一増したのは自由民主党の党内事情によると述べており、党内事情というのは党利党略にほかならず公選法一五条八項ただし書の特別の事情に該当しないと主張している。
千葉県定例県議会会議録(甲第三号証)によれば、提出者である自由民主党のA議員から、党内事情によりまして結果的に一増ということになりましたとの発言があったことが認められ、この発言は、同議員提出の改正条例案(本件改正条例)が人口較差を是正し定数の増員を必要最小限に抑える方針のもとに、三選挙区を特例選挙区として存置することに問題はないとの立場で検討した結果が総定数の一増であり、この背景には自由民主党所属議員の利益を考慮せざるを得なかった事情があることを暗に述べたものと解される(甲第四、五号証参照)が、この発言が不穏当であることは別論として、改正条例案策定に至る経緯や当該改正条例案を提出した議員が審議中に述べた意見によって直ちに特例選挙区の廃止を含まない本件改正条例が違法となるいわれはないというべきである。したがって、原告の右主張は、公選法一五条八項ただし書の特別の事情について判断するまでもなく、失当である。
四 原告は、第三に、八千代市選挙区(定数二)は海上郡選挙区に対して議員一人当たりの人口較差が三・四九倍(平成七年国勢調査人口)になり、人口比例原則に従って定数を三にするべきところ二にとどまっているが、このことに公選法一五条八項ただし書の特別の事情はないと主張している。
1 まず、特例選挙区として海上郡選挙区、匝瑳郡選挙区及び勝浦市選挙区が設置されていることについて検討する。
特例選挙区に関する公選法二七一条二項の規定は、社会の急激な工業化、産業化に伴い、農村部から都市部への人口の急激な変動が現れ始めた状況に対応したものであるが、また、都市が歴史的にも、政治的、経済的、社会的にも独自の実体を有し、一つの政治的まとまりを有する単位としてとらえ得ることに照らし、この地域的まとまりを尊重し、これを構成する住民の意思を都道府県政に反映させることが、市町村行政を補完しつつ、長期的展望に立った均衡のとれた行政施策を行うために必要であり、そのための地域代表を確保することが必要とされる場合があるという趣旨の下に、昭和四一年法律第七七号による公選法の改正により現行の規定になったものと解される。そして、具体的にいかなる場合に特例選挙区の設置が認められるかについては、客観的な基準が定められているわけではないから、結局、右のような公選法二七一条二項の規定の趣旨に照らして、当該都道府県の行政施策の遂行上当該地域からの代表を確保する必要性の有無・程度、隣接の都市との合区の困難性の有無・程度等を総合判断して決することにならざるを得ないところ、それには当該都道府県の実情を考慮し、当該都道府県全体の調和ある発展を図るなどの観点からする政策的判断をも必要とすることが明らかである。したがって、特例選挙区の設置を適法なものとして是認し得るか否かは、この点に関する都道府県議会の判断が右のような観点からする裁量権の合理的な行使として是認されるかどうかによって決するよりほかはない。もっとも、都道府県議会の議員の選挙区に関して公選法一五条一項ないし三項が規定しているところからすると、同法二七一条二項は、当該選挙区の人口を議員一人あたりの人口で除して得た数(配当基数)が〇・五を著しく下回る場合には、特例選挙区の設置を認めない趣旨であると解されるから、このような場合には、特例選挙区の設置についての都道府県議会の判断は、合理的裁量の限界を超えているものと堆定するのが相当である(最高裁判所平成四年(行ツ)第九四号平成五年一〇月二二日第二小法廷判決参照)。
ところで、平成三年四月七日施行の千葉県議会議員一般選挙に関して、右最高裁判所平成四年(行ツ)第九四号平成五年一〇月二二日第二小法廷判決は、事実関係を認定し、平成二年の国勢調査の結果による配当基数は海上郡選挙区及び匝瑳郡選挙区が〇・三六、勝浦市選挙区が〇・四二であったとした上で、海上郡、匝瑳郡、勝浦市の三選挙区の配当基数は、いまだ特例選挙区の設置が許されない程度にまでは至っていないものというべきであり、他に、千葉県議会が平成三年改正後の千葉県議会議員の選挙区等に関する条例において右の三選挙区を特例選挙区として存置したことが社会通念上著しく不合理であることが明らかであると認めるべき事情もうかがわれないから、同議会が右の三選挙区を特例選挙区として存置したことは、同議会に与えられた裁量権の合理的な行使として是認することができると説示して、平成三年改正後においても右条例が右の三選挙区を特例選挙区として存置したことは適法であるとの結論を導いている。そして、平成三年の千葉県議会議員一般選挙以後の本件選挙に至るまでの事情は、弁論の全趣旨により認められる本判決事実摘示第二、四2ないし4記載の事実に含まれているところ、平成七年の国勢調査人口による配当基数は、海上郡選挙区が〇・三七四、匝瑳郡選挙区が〇・三七五、勝浦市選挙区が〇・四一一である(平成三年と比べて海上郡選挙区及び匝瑳郡選挙区については共に数値が上がっており、また、勝浦市選挙区については若干数値が下がっているものの、ほぼ横這いである。)。以上を総合すると、本件選挙においても、海上郡、匝瑳郡、勝浦市の三選挙区の配当基数は、いまだ特例選挙区の設置が許されない程度にまでは至っていないものといぅべきであり、他に、千葉県議会が本件改正条例制定後の千葉県議会議員の選挙区等に関する条例において右の三選挙区を特例選挙区として存置したことが社会通念上著しく不合理であることが明らかであると認めるべき事情もうかがわれないから、同議会が右の三選挙区を特例選挙区として存置したことは、同議会に与えられた裁量権の合理的な行使として是認することができ、本件改正条例制定後においても千葉県議会議員の選挙区等に関する条例が右の三選挙区を特例選挙区として存置したことは適法であると解される。
2 次に、八千代市選挙区が海上郡選挙区に対して議員一人当たりの人口較差が三・四九倍(平成七年国勢調査人口)になっていること、ないし各選挙区における議員一人当たりの人口較差の公選法一五条八項適合性について検討する。
公選法一五条八項は、憲法の要請を受け、都道府県議会の議員の定数配分につき、人口比例を最も重要かつ基本的な基準とし、各選挙人の投票の価値が平等であるべきことを強く要求しているものと解される。また、公選法一五条八項ただし書は、特別の事情があるときは、各選挙区において選挙すべき議員の数を、おおむね人口を基準とし、地域間の均衡を考慮して定めることができるとしているところ、右ただし書の規定を適用していかなる事情の存するときに右の修正を加え得るか、また、どの程度の修正を加え得るかについて客観的基準が存するものでもない。したがって、議員定数の配分を定めた条例の規定が公選法一五条八項の規定に適合するかどうかについては、都道府県議会の具体的に定めるところが右のような選挙制度の下における裁量権の合理的な行使として是認されるかどうかによって決するほかはない。しかし、定数配分規定の制定又はその改正により具体的に決定された定数配分の下における選挙人の投票の有する価値に不平等が存し、あるいはその後の人口の変動により右不平等が生じ、それが都道府県議会において地域間の均衡を図るなどのため通常考慮し得る諸般の要素を斟酌してもなお、一般的に合理性を有するものとは考えられない程度に達しているときは、右のような不平等は、もはや都道府県議会の合理的裁量の限界を超えているものと推定され、これを正当化すべき特別の理由が示されない限り、公選法一五条八項違反と判断されざるを得ないものというべきである(最高裁判所平成四年(行ツ)第九四号平成五年一〇月二二日第二小法廷判決参照)。
ところで、平成三年四月七日施行の千葉県議会議員一般選挙に関して、右最高裁判所平成四年(行ツ)第九四号平成五年一〇月二二日第二小法廷判決は、事実関係を認定し、配当基数に応じて定数を配分した人口比定数による特例選挙区を除くその他の選挙区間における議員一人に対する人口の最大較差は一対二・七六(八日市場市選挙区対君津市選挙区)となり、特例選挙区とその他の選挙区間の議員一人に対する人口の最大較差は一対四・〇七(匝瑳郡選挙区対君津市選挙区)となり、言い換えれば、公選法一五条七項(現八項)本文に従って議員定数を配分したとした場合の議員一人に対する人口の最大較差は、特例選挙区を除いた場合には一対二・七六、特例選挙区を含めた場合には一対四・〇七となるはずのところを、千葉県議会が公選法一五条七項ただし書を適用して千葉県議会議員の選挙区等に関する条例の平成三年改正を行った結果、その最大較差は、特例選挙区を除いた場合には一対二・四五、特例選挙区を含めた場合には一対三・四八になっており、いずれの較差も縮小されているということになり、右選挙当時における右のような投票価値の不平等は、千葉県議会に与えられた裁量権の合理的な行使として是認することができると説示して、平成三年改正後の右条例に係る定数配分規定は、公選法一五条七項に違反するものでなく、適法というべきであるとの結論を導いている。そして、本件選挙当時における各選挙区の人口、定数、議員一人当たりの人口、特例選挙区とその他の選挙区間の較差、特例選挙区を除くその他の選挙区間における較差、配当基数、配当基数に応じて定数を配分した人口比定数、人口比定数による場合の特例選挙区とその他の選挙区間の較差、特例選挙区を除くその他の選挙区間における較差は、本判決別表(千葉県議会議員定数較差等一覧)のとおりであり、人口比定数による議員一人当たりの人口の最大較差は、特例選挙区を含めた場合には一対四・一四(海上郡選挙区対茂原市選挙区)、特例選挙区を除いた場合には一対二・七五六(八日市場市選挙区対茂原市選挙区)になり、本件改正条例制定の結果では、その最大較差が特例選挙区を含めた場合には一対三・七三(海上郡選挙区対千葉市ξ選挙区)、特例選挙区を除いた場合には一対二・七五八(安房郡選挙区対千葉市ξ選挙区)になる。したがって、本件改正条例の制定により、人口比定数による場合と比べて、議員一人当たりの人口の最大較差は、特例選挙区を含めた場合には幾分縮小され、特例選挙区を除いた場合には微増で無視できる程度であり、また、平成三年施行の千葉県議会議員一般選挙と比べて、議員一人当たりの人口の最大較差は、特例選挙区を含めた場合も、特例選挙区を除いた場合も幾分拡大しているが、前記最高裁判所判決の判断の枠組みを超えるほどのものではない(なお、最高裁判所平成四年(行ツ)第一七二号平成五年一〇月二二日第二小法廷判決は、平成三年施行の愛知県議会議員一般選挙に関して、議員一人当たりの人口の最大較差が特例選挙区を含めた場合には一対五・〇二、特例選挙区を除いた場合には一対二・八九となると認定した上で、右選挙当時における投票価値の不平等は、愛知県議会に与えられた裁量権の合理的な行使として是認することができると説示している。)ので、本件選挙当時における右のような投票価値の不平等は、千葉県議会に与えられた裁量権の合理的な行使として是認することができ、本件改正条例制定後の千葉県議会議員の選挙区等に関する条例に係る定数配分規定は、公選法一五条八項に違反するものでなく、適法であると解される。
五 以上のとおりであるから、本件選挙が選挙の規定に違反して行われたことを認めることはできず、原告の本訴請求は失当である。
よって、原告の本訴請求は棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 荒井史男 裁判官 大島崇志 裁判官 山口博)